2012年11月30日金曜日

IT投資のオペレーション・マネジメントとは?

河田です。
前回の投稿でカリアック会議での発表内容(コンテンツ)を紹介したところ、予想以上に多くの方からアクセスがあったので・・・今回は少し遡って、昨年のカリアック会議での発表の話を少し。

カリアック会議の概要は、過去の投稿「カリアック会議で学んだ3つのコト」で紹介していますが、昨年の会議では「IT投資のオペレーション・マネジメントの価値」というテーマで発表しました。

-------------------------------------------------------------------------------

「オペレーション・マネジメント」とは・・・システム開発後(サービス稼働後)の、運用・保守フェーズにおけるマネジメントの概念を指しています。

一般に「オペレーション・マネジメント」と言うと、主に製造業を中心とした生産管理プロセスの運営管理にフォーカスした話が多いようですが、ここで紹介している「オペレーション・マネジメント」は、企業情報システムにおける運用・保守フェーズのマネジメントを指し、大別して「運用」・「保守」・「稼動資産管理」の3つで構成されます。

なお、企業情報システムの運用・保守フェーズのマネジメントとしては、ITIL(IT Infrastructure Library)が有名ですが、ITILが運用・保守の「プロセス」に着目しているベストプラクティスの概念であるのに対し、オペレーション・マネジメントは該当フェーズの活動を「IT投資マネジメント」の切り口で捉えているところが、一番の違いと言えます。

前置きが長くなりましたが、今回は「オペレーション・マネジメント」について、「環境変化」と「重要性」の2点に絞ってご紹介したいと思います。


【環境の変化】
ITの環境変化は数え上げればキリがない話になりますが、運用・保守フェーズで考えた場合に意識すべき考慮点として、少なくとも以下の3点はインパクトが大きいと考えられます。

  1. クラウド化
  2. システム開発手法の変化
  3. IFRSへの対応

企業情報システムのクラウド化は、言い換えれば「システムがサービス化し、選択責任が利用者に移ること」ですが、クラウド化の進展により、従来以上にシステムの「サービス」という側面が意識されることになります。
サービス化されたシステムは環境変化に柔軟に対応するための対応(システムの機能追加、品質向上に繋がる継続的な改善)が従来以上に強く・素早く求められると言えます。

少し刺激的なタイトルですが、下記の特集も興味深いですね。



また、システム開発手法の変化という面でも、大規模システムはまだ従来手法ながら、新規の小中う規模システムにはアジャイル開発の採用、継続を前提とした開発が増えてきていますね。



また、会計制度としてのIFRS対応という面でも、(今後の議論の進展によっては)大きな影響が考えられます。
具体的には、投資判断の基準が「収益基準」から「資産負債基準」にシフトすることで、結果として下記を考慮する形で運用・保守フェーズで継続的にIT資産の管理が求められる可能性もあります。

  • 従来以上に投資結果を資産/負債として正しく把握する
  • IT投資においても資産、費用を正しく管理すること(耐用年数、減損)


このような環境変化に加えて、オペレーション・マネジメントの対象業務そのものも変化しています。




つまり、オペレーション・マネジメントの目的も「情報システムの維持・運行」から、「IT資産価値の維持・増大」へと変わらざるを得ない状況が生まれていると言えます。


【オペレーション・マネジメントの重要性】
運用・保守フェーズにおける調査・分析レポートは非常に少ないですが、該当分野にフォーカスを当てている調査の一つである、JUASのソフトウェアメトリックス調査によれば・・・

  • 多くの企業において、新規開発より維持費用に多くのコストがかかっているのが実情
  • 一定規模のシステムで、追加開発無しで継続利用するシステムはない
  • 自社開発システムの約6割は、稼動時の品質が「普通以下」と評価
  • 自社開発システムは、稼動後5年間で初期開発費の約5割に相当する保守費が発生

ということが報告されています。

このような状況を踏まえて、システム開発のライフサイクルに対応つけられたIT投資マネジメントのサイクルについても、変化が求められています。

  • 従来は、企画・計画フェーズのIT投資判断の在り方(所謂、事前評価)の議論が中心
    今後は、運用・保守フェーズのIT投資判断の在り方の議論も必要
  • 従来の事後評価は、事前評価の結果証明が中心
    今後は、機能追加を含む「保守」の評価の組み込み、システム稼働後の資産評価も必要


また、下記の点を考えれば、オペレーション・マネジメントはこれからもっと議論されるべき余地があると言えます。

  • 新規開発費のどう使うか?という積極的な議論に対し、維持費用は常に消極的なコスト削減議論の対象に留まることが多い
  • 維持費用と一言で言っても、投資の性質は一律ではなく、企業戦略に基づく大きな機能追加対応(拡張保守等)も増えている
  • 新規に開発するシステムは稼働するまで何ら価値を生み出すことは ないが、稼働中のシステムは既に何らかの価値を生み出している

このような点を考えていくと、「維持運用を重視」とは言わないまでも、「軽視すべきでは無い」と言えますね。

ちなみに、冒頭で触れたITILについて、2000年に公開されたv2と2007年に公開されたv3を比較してみると、ITILの変化にオペレーション・マネジメントとの関連性が見えてきます。
切り口が違うITILの変化からも、オペレーション・マネジメントの必要性が言えますね。


【まとめ】

  • 今後のIT投資マネジメントでは、オペレーション・マネジメントが重要なテーマの一つに
  • オペレーション・マネジメントでは、 「保守の評価」、「稼動資産の評価」が重要
  • オペレーション・マネジメントの取り組みとして、継続的なサービスマネジメントがKeyになる(サービス・ポートフォリオ管理、サービスレベル管理)


最後に、上記の話を含む発表資料を以下に公開しています。


オペレーション・マネジメントはIT投資マネジメントの中ではこれからの分野ですが、机上論ではなく実践的なアプローチが求められる段階になってきたと感じています。

IT業界の中ではネガティブなイメージが多いこの分野において、このエントリを見て、「オペレーション・マネジメントの価値」に興味を持つ方が一人でも増えてくれるとを願っています。

2012年10月31日水曜日

PPMツールの導入事例について

藤原です。
今回は、CA社発行の情報誌『Smart Enterprise vol.6』にて、PPM(Project Portforio Management)製品の新しい導入事例が紹介されていましたので、その話を少し。

------------------------------------------------------

情報誌に掲載されていたのは「三菱東京UFJ銀行」が2012年1月より「CA Clarity PPM」を導入した事例に関する記事です。

同製品の導入事例としては、以前のエントリ「PPMツールの導入事例について思うコト」にて「アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)」の事例を紹介しましたが、今回紹介する「三菱東京UFJ銀行」の事例は、導入目的や利用方法が異なっています。

※「アフラック」の導入事例に関する詳細はコチラを参照ください。

「アフラック」では、IT投資案件の可視化とガバナンスを目的として導入している(ポートフォリオ管理を支援するツールとして)のに対し、今回の「三菱東京UFJ銀行」の事例では、プロジェクト管理の効率化と情報共有を目的としている(プロジェクト管理を支援するツールとして)点で違いがあります。

記事にて紹介されている内容をまとめると、

【導入の目的】

常時300ものプロジェクトが稼働している状況において、プロジェクト管理に関する以下の課題への対応が必要だった。

  • 効率化:同行ではPMBOKに準拠した管理手法が確立している。しかし個々の作業レベルで、進捗管理/WBS作成等はExcelがベースで、フォーマットの差異への対応、作成の作業負荷等に課題
  • 情報共有:現場、管理層(PM)、経営層の3レイヤ間での情報共有の方法
  • 分析:プロジェクトの実績データ等の分析作業もExcelを使用

【ツール選定のポイント】

  •  現行の管理手法に適用させるための柔軟なカスタマイズ性
  • 数千人がストレス無く利用できる優れたパフォーマンス
  • 海外導入の容易さ(多言語対応)

【ツール導入と利用状況】

  •  各プロジェクトの管理ツールとして「CA Clarity PPM」を採用
  • 各種管理作業、分析作業の効率化、効果的な情報共有基盤として活用中
  • ただし、予算管理とポートフォリオ管理には、自社開発の既存ツールを利用中
  • 今後、既存の仕組みとの兼ね合いを考慮しながら、「CA Clarity PPM」の適用範囲を拡張していくことを検討中


今回紹介した導入事例は、IT投資状況の可視化という側面ではなく、プロジェクト管理の側面からの導入でした。

IT投資効果の最大化に向け、様々な意思決定を推進していくためには、その判断材料として、総合的なプロジェクト管理・分析が重要であり、その実績データには高い精度が求められます。同行の取組みは、まさにその地盤作りともいうべきものだと思います。

今後も、企業におけるITプロジェクトの乱立、大規模化や多様化は避けられず、横断的に複数のプロジェクトを効率的に管理、分析することの重要性は高まるはずです。

PPMツール等を利用した横断的なプロジェクト管理を行うメリットとして、
IT投資効果を測る上での効果的な判断材料を整理できる点にあると思いますが、
加えて、
過去や現在進行中の他のプロジェクトと共通の基準で比較評価できることは、
自身のプロジェクト活動を見直し、改善に取り組みきっかけにもなることから、
現場におけるプロジェクト品質向上への動機付けとしての効果を果たす
というメリットもあるかと思います。

今後も、PPMの活用によって、効率的なプロジェクト管理活動を実現しつつ、
IT投資効果の最大化に向けた取り組みを推進する事例が、さらに増えていくことに
期待したいと思います。


2012年9月27日木曜日

カリアック会議で学んだ3つのコト

河田です。
9月8日(土)~9(日)に、「中小企業のIT経営研究会」浜名湖フォーラム(通称:カリアック会議)に参加しましたので、今回はその話について少し。

-------------------------------------------------------------------------------
カリアック会議は、
  • 経営情報学会の「中小企業のIT経営研究部会」
  • 武蔵大学の「松島教授オープンゼミ」
  • ITコーディネータ協会の「IT経営研究所」
3者合同の研究合宿で、浜名湖畔のカリアック(商工会議所研修センター)で開催されました。

実際のセッション内容、雰囲気については、参加者の一人であるシーポイントの佐野さんが写真付きのBlog記事「カリアックで鍛える」で紹介されていますが、

大学教授の先生方にはじまり、
各界で、全国で活躍の皆さんが、ここ「浜名湖畔 カリアック」に集合したのです。
まるでメジャーリーグのオールスターを観てる気分でした。
この「演題タイトル」、まじ、スゴイっすよ。

という説明には、私も同感です。


今回で二回目の参加となる研究合宿でしたが、前回以上に多岐に渡るテーマに関する発表がなされ、とても中身の濃い時間を過ごせたと思います。


様々な分野の専門家、有識者、経営者の方々が集まり、肩書きや立場に関係なく議論するというスタイルは、とても新鮮で、会場に熱気があり、そして・・・心地良い緊張感も漂いました。

個々のテーマについて学んだコトを書くと、、、キリが無いくらいに色々な話があったのですが、その中でも特に私にとって重要な「気づき」に繋がったコトを3つご紹介します。

発表を聞いていないと・・・
議論に参加していないと・・・
そして一緒に深夜までお酒を飲んでいないと・・・???、
文章だけでは上手く伝えられない気がしてとても残念ですが、、、備忘録も兼ねて。
  1. Catalyst(触媒)としてのクラウドの重要性
    これまで個々個別に行われていた互いの業務や作業を結合させ、互いに利益をもたらす新たなビジネスのモデルを作り出すまでの設計がITベンダーに求められている(横田先生、スマイルワークス:坂本さん) 
    →クラウドの価値をコスト抑制、費用化モデル、俊敏性等のITリソースの所有/利用の世界で語るのではなく、クラウドのプラットフォームが無ければ実現できない「新たな付加価値」の視点で、実例も交えた話として聞けたのは、とても興味深いです。

  2. 個別の具体論ではなく、共通項から本質を考えることの重要性
    共通項を考えないで、個別の案件、取り組みの成果を比べることに意味は無いし、議論のテーマじゃない。個々の案件、取り組みにどんな共通性があったのか?その取組みはビジネスの成功に正しく繋がったのか?という本質を考えるべき。(手島先生)
    →「耳が痛い」というのは正に。。。と感じるお話でした。分かりやすい具体論(成功例)にはついつい共感しがちですが、本当に重要なのはケース・バイ・ケースの例ではなく、共通項であり抽象化できる概念、本質ですよね。

  3. ヘテロジニアスの重要性
    ヘテロジニアスな世界で勝負をしなければ、人間は成長できない。ホモジニアスな世界は居心地が良いが、大して成長しない。企業人はもっと積極的に外の社会に出て、異質な世界から多くのことを学ばなければならない。(黒岩先生)
    →技術の世界で広く深く世界と関わり、道を切り開いてきた方だからこそ・・・の重みのある話でしたが、偶然にも自分の経験と重なる部分が少しあったことも嬉しかったです。

私の中では、とても重要な気づきだったのですが、自分で書いた文章を読み返してみると、相互の関連性も無く、伝わり難いですね。ホントに。。。
この拙い表現でも、詳しく知りたいという方がもしいらっしゃったら、ご連絡下さい。

ちなみに、カリアック会議では「ソフトウェア資産管理とIT投資マネジメントの関係性」というテーマで、拙いながら…私も発表させてもらいました。



このBlogの過去のエントリ「「ソフトウェア資産管理(SAM)とは?」、「ソフトウェア資産管理(SAM)とは?(その2)」の延長線上の話ですが、
多くの有識者の方々から貴重な指摘をもらえたことは、とても有難く、
また一部の方から共感のコメントを頂けたことは、とても嬉しかったです。

最後に、この貴重な機会を提供して頂いた関係者の皆さん(特に、松島先生、IBMの栗山さん、日本商工会議所の小松さん)には、「感謝」以外の言葉が見当たりません。

本当にありがとうございました!!!

2012年8月31日金曜日

BABOKとIT投資マネジメントの関連性

藤原です。
3回目の投稿になりますが、隔月とはいえ、
テーマを意識したネタ探しや作文というのは、なかなか大変ですね。

-------------------------------------------------------------------------------

少し前に、BABOK(Business Analysis Body Of Knowledge)の研修に参加しました。
研修や自身での勉強を通じてBABOKを読み解く中で、IT投資マネジメント活動との関連性を感じる部分があったので、今回はその話をしたいと思います。

BABOK、BAとは?

BABOKとは、ビジネスアナリシス(BA)を行う為に必要なタスクやテクニックをまとめた知識体系であり、BA活動に関する共通のフレームワークです。
カナダのIIBA(International Institute of Business Analysis)という団体が2005年に初版を発行し、現在2.0版が最新となっています。

ビジネスアナリシス(BA)は以下のように定義されています。

ビジネスアナリシスとは、組織の構造とポリシーおよび業務運用について理解を深め、組織の目的達成に役立つソリューションを推進するために、ステークホルダー間の橋渡しとなるタスクとテクニックをまとめたものである。

また、BA活動を7つの知識エリアとして定義しています。
各知識エリアには、それぞれ関連する複数のタスクが含まれています。

  • 計画と監視
  • 引き出し
  • 要求マネジメントとコミュニケーション
  • 企業分析(EA)
  • 要求分析(RA)
  • ソリューションの評価と妥当性確認(SAV)
  • 基礎コンピテンシー

それぞれの知識エリアに関する詳細説明は、今回は省略させていただきますが、各種情報サイトの多くの記事で紹介されておりますので、そちらを参照ください。

また、BABOK自体も、IIBA日本支部のHPから購入することが可能です。
http://store.iiba-japan.org/

BABOKに記述される各知識エリア・タスク全体を通して、
BA活動のポイントを概略すると、以下となります。

  • 組織、業務を理解し、組織のビジネス上のゴールや目的を明確化する
  • ステークホルダーが目的の達成に必要とする機能や能力を要求として引き出し、構造化し、文書化する
  • 要求を分析し、目的達成との整合性を確認する
  • 実装担当(プロジェクト)に要求を正しく伝達し、提案されたソリューションの妥当性を確認する
  • 導入されたソリューションのパフォーマンスを評価する


BAタスクとIT投資マネジメントとの関連性は?

BA活動について、IT投資マネジメントの活動の関連性としては、

  • 組織の目的、その達成に必要な「要求」に関して、評価・判断するための指標を定義することを重要としている点
  • 組織の目的を達成するための「要求」に優先順位を付け、妥当性を確認するタスクを有している点
  • ソリューション導入後に、要求を満足する効果を果たしているか評価し、次の分析活動へ繋げるタスクを有している点

が挙げられると思います。

BABOKでは、ビジネス上のゴール、目的は「SMARTであるべき」としています。

 S:Specific(具体的)
 M:Measurable(測定可能)
 A:Achievable(現実的)
 R:Relevant(目的と関連している)
 T:Time-bounded(締切りがある)

また、優先順位付けられた「要求」(そして、その要求を満足するソリューションに対して投資すること)が妥当かを判断するための指標についても例示しています。

  • 前提条件の識別
  • 評価基準の設定(KPI)
  • ビジネス価値の確認
  • 要求トレーサビリティの確認
  • ビジネスケースとの整合性
  • 機会コスト

以下のタスクに関しては、「測定可能な評価基準の定義が必要」としています。

 「5.5 ビジネスケースの定義」
 「6.6 要求の妥当性確認」
 「7.6 ソリューションのパフォーマンス評価」

BAタスクに記述されている、投資する要求、ソリューションに対する妥当性確認や、導入したソリューションに対して、定量的・定性的な評価を行い、その効果を判断すると共に、次の取組みへと繋ぐ活動は、IT投資マネジメントにおいても共通であると思います。


私自身、BABOKについてまだまだ勉強不足で、解釈の間違い等があるかもしれません。
今後、読み解きを続ける中で、また新たな気づきがあれば、ご紹介したいと思います。

2012年7月30日月曜日

ソフトウェア資産管理(SAM)とは?(その2)

少し前に「ソフトウェア資産管理(SAM)とは?」というエントリでソフトウェア資産管理の概要、及び対象範囲に触れましたが、今回はその続きです。

ソフトウェア資産管理の対象範囲が、「基準/ガイドラインで定義された範囲」と、「一般的に実務で扱われる際の範囲」で大きな差異があることは前回書きましたが、この違いは以下の2つの問題に起因しているのではないか?と考えています。
  • 技術的な仕組みの問題
  • 会計上の管理の問題
つまり、概念モデル(机上論)としては広範な範囲を対象にできるけど、実務上は上記の問題が解決できないために、、、結果として範囲が限定的になるのではないかな?と。


「技術的な仕組み」については、今回のテーマではないので、簡単に触れておくと・・・
汎用性、共通性、標準性の高いクライアントPCに比べサーバーの技術仕様を標準化することが難しいことがその真因と考えています(具体的に言えば、OSレベルで異なること、エージェントアプリの導入による影響が懸念されること、それらに起因するAPIの課題・・・が挙げられます)。

前置きが長くなりましたが、今回はこの「会計上の管理」に関係するソフトウェア資産管理におけるIT投資のアプローチについて、少し考えてみたいと思います。

【国内会計基準におけるソフトウェア資産の扱い】
まず、会計制度的な扱いについて、国内ではソフトウェア資産(無形固定資産)に関する包括的な規定が無いため、下記の2つの規定からその目的に応じて会計処理が判断されることになります。
  • 「研究開発費等に係る会計基準」企業会計審議会
  • 「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」会計制度委員報告第12号

このため、多くの企業においてソフトウェア資産は、「自社利用ソフトウェア」という扱いの無形固定資産として計上され、5年の定額法で減価償却することが一般的になっています。


つまり、ソフトウェア資産として一時的に資産化はされるものの、あくまで会計上の費用処理の管理であり、仮に6年以上利用するアプリケーションであったとしても、減価償却後の価値は認められていません。(言い換えれば、「価値」としては管理されていないことになります)


【国際会計基準(IFRS)におけるソフトウェア資産の扱い】
少し視野を広げて国際会計基準(IFRS)におけるソフトウェア資産の扱いを見てみると・・・国内基準とは考え方が少し違います。

IAS第38号によれば、(ソフトウェア資産を含む)無形資産は
過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が企業に流入することが期待される資源のうち、物質的実体のない識別可能な非貨幣性資産」
と定義され、無形資産の要件として、以下の2つが定められています。
  1. 資産に起因する、期待される将来の経済的便益が流入する可能性が高いこと
  2. 当該資産の取得原価が信頼性をもって測定できること
つまり、国際会計基準では上記の要件さえ満たせばソフトウェアを資産として計上し、継続的に価値を認める(管理する)考え方はあると言えます。

但し、既に国際会計基準(IFRS)導入済みの欧州企業でさえも費用処理/資産化の対応が分かれているのが実情であり、
国内基準への適用(資産化の是非)についても企業会計基準委員会(ASBJ)で無形資産に関する論点の整理(H21.12.18)」でも問題提起され、審議事項(5)-3 検討論点:社内開発費の資産計上について」審議されている状態です。
開発に係る支出を資産計上するか否かについては、それが無形資産の定義に該当し、認識要件を満たす以上は資産計上すべきであるという見方がある一方で、そもそも経済的便益をもたらす蓋然性の要件を判断するのが困難ではないかという点や、その運用において資産計上すべきか否かの判断に企業間でばらつきが生じるのではないかという点から従来通り支出時の費用とすべきであるという見方もある。 
この辺りの難しい論点は会計制度の話なので、専門の会計士の議論の結果を待つしかありませんが、この資産計上の可否はあくまで(財務的な)会計上の扱いの話に過ぎません。

【知的資産としてのソフトウェア資産】
次に、ソフトウェア資産を知的財産/資産として捉えると、まずソフトウェアは知的財産としてそのプログラムの表現が著作権法で保護されています。
そこで、知的財産の会計上の扱い、及び価値評価について少し考えてみると…

  • 特許権、商標権に代表される知的資産は、無形固定資産として扱われる
  • (企業統合、M&A等の客観的に資産性を算出するタイミングを除けば)財務会計の視点で評価(資産計上)はできない
  • 知的資産の価値を評価する目的は多岐に渡る(必ずしも会計的な視点は求められていない)


このように、知的財産は(無形資産と同様に)会計上では評価が難しいものの、内部管理の目的において適正な評価を行い、知財戦略として積極的に活用するという考え方は一般論としても妥当と言えそうです。

【会計区分と管理会計のアプローチ」
ここまでの文章では、会計=財務的な扱いを前提に書いてきましたが、企業会計には財務会計だけでなく、管理会計のアプローチがあります。


つまり、会計制度に大きく影響を受ける財務会計の視点でソフトウェア資産管理を考えると、様々な面で限界がある(できることもあれば、できないこともある)ことになりますが、管理会計の視点としてソフトウェア資産管理を考える場合は、企業独自の考え方を適用できます。

【まとめ:IT投資マネジメントとソフトウェア資産管理】
最後に、ソフトウエア資産管理とIT投資マネジメントの関係性について、前回・今回の内容を纏めて考えてみると・・・

  • ソフトウェア資産管理は「セキュリティ強化、IT投資の最適化」を目的とし、有償/無償を問わないソフトウェア全体(稼働するハードウェアも含む)が本来の対象範囲である→しかし、実際には多くの企業で、「ライセンスコンプライアンス」を目的として、有償ソフトウェアの管理のみに対象範囲が留まっていることが多い(自社開発アプリケーションは事実上管理されていない)
  • 国内会計基準では、一時的に資産化はされるものの、あくまで会計上の費用処理(減価償却費)の管理のみで、価値としては管理されていない
  • 国際会計基準(IFRS)では、ソフトウェアを資産として計上し、継続的に価値を認める(管理する)考え方はあるものの、その要件は厳しい
  • 知的財産としてソフトウェア資産を(財務)会計視点で(資産計上することを考慮して)価値評価することは難しい
    →しかし、
    管理会計の視点で「自社の経営管理に役立つ情報」と位置づけ、適正な評価を行い、企業活動に積極的に活用するという考え方は一般論としても妥当

このように見てみると、「IT投資マネジメントの一つのテーマとしてソフトウェア資産管理を扱う意義は大きい」という仮説が成り立つのではないかと考えています。

今回は様々な視点での概論になりましたが、このアプローチについては、現在検討を深めているところなので、内容が纏まった時点で改めて公開したいと思います。