2014年6月30日月曜日

「分析力を武器とする企業」を読んで

藤原です。
現在、企業におけるデータ活用を目的とした各種サービスの開発に携わっていることもあり、以前から気になっていた書籍を読んでみました。

分析力を武器とする企業分析力を武器とする企業
トーマス・H・ダベンポート ジェーン・G・ハリス 村井 章子

日経BP社 2008-07-24
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”データ分析が企業活動における競争優位を生み出す”というメインテーマに沿って、分析を武器にする企業の特徴や具体的な事例、活用方法から、その分析活動を支える組織、人材、技術に至るまで幅広くまとめられています。
2008年に発刊された書籍であることから、企業の事例など多少の古さは感じますが、企業においてデータ活用を考える上で、組織としての在り方、人材といった点について多くの示唆がある良書だと思います。

続編「分析力を駆使する企業 発展の五段階」も発刊されており、企業においてデータ分析に取り組むための実践的なアプローチ等が書かれています。
こちらの方もまた別の機会にご紹介したいと思います。

さて、本書は2部構成(全9章)でまとめられています。

第1部:分析力を武器とする企業の特徴(第1章〜第5章)
 →データ分析の定義から、武器にできている企業の特徴、データ分析の活用事例など
第2部:分析力を組織力にする(第6章〜第9章)
 →データ分析に取り組むための組織戦略、人材、技術など

企業が競争優位を勝ち取り、成長を続けていくためにはデータ分析が有益であること、それを様々な企業の事例や現象によって、その主張を裏付けるとともに、そのデータ分析力を高めるために、企業としてどう取り組むべきか、という点がまとめられているのですが、その中でいくつか自分が感じた点などを綴ってみたいと思います。

本書で言う分析とは、データを多角的・多面的に活用して統計分析・定量分析を行い、説明モデル・予測モデルを作成し、事実に基づく意思決定、行動に結びつけるところまでを意味する。(第1章)

→ 分析の定義として「行動に結びつける」を含んでいる点で納得です。
 どんなデータ分析も目的を伴わないと意味が無いですし、その結果に基づき、実際にアクションを起こせることが重要だと考えます。
 データ分析は定例会議の為の報告サマリ(可視化)の為にあるのではないので、その先にどう改善できるのか、どこを強化すべきか、というアクションに結びつくような意味のある分析内容(対象データや分析指標)でなくてはいけないですよね。

分析力を武器にする企業の特徴(第2章)
第1: 分析力が戦略的競争優位性のベースとなっている
第2: 分析に組織を挙げて取り組んでいる
第3: 経営幹部が分析力の活用に熱心である
第4: 分析力に社運を賭け戦略の中心に据えている


→ 今やコンシューマーを対象としたサービスを提供する企業はデータ分析は必須であり、組織的に取り組んでいるのが現状ですね。ただ、競争優位という部分だけでなく、企業内の業務活動(業務改善、精度向上、生産性向上など)においても分析力は有益だという点で、分析の対象を様々な分野・部門に応用していく企業が増えていくでしょうね。

分析力は持続可能な競争優位となりうるか(第3章)
競争優位というものは、動く標的である。これを仕留めるためには、絶え間ない改善とイノベーションが必要だ。


→ データ分析に限らず、企業活動全般に言えることではありますが、どのような取組みも継続的改善活動を伴って、効果を維持・発展できるということですね。
 データ分析は、対象データの選定やアルゴリズム等、有益な結果を得られるまでに多くの時間や試行錯誤が必要となります。
 しかし、その有益な分析パターンも変わっていくことを認識し、執着するのではなく、柔軟に分析対象やアルゴリズムを変化させていく姿勢が重要だということでしょうか。

分析サービスを提供する(第3章)
データと分析サービスの両方を売る企業にとって最大の難関は、顧客を説得し、これからはデータ分析力がモノを言う時代だとわかってもらうことだという。問題はコストではない。分析で何ができるのか、どんな成功例があるのか、企業経営者はよく理解していないのである。


→ 私自身、データ活用を目的とした分析サービスに関係している立場なのですが、今や「ビッグデータ」の流行もあり、分析の重要性を認識していない経営者は、本書の発刊当初(2008年)に比べれば遥かに少ないと思います。
 しかしながら、実態として顧客にデータ活用(分析を含む)の価値を理解してもらうのは、やはり非常に難しいと感じます。それは企業活動の競争優位という目的に対して、どのようなデータがどのように分析されることで価値を産むのか、それを顧客が主体的に取り組めるかが大きく関係しているからだと思っています。
 分析を価値あるものにするには、「分析のプロ」だけでなく「事業のプロ」の力が不可欠ということ。

分析力の評価と戦略目標(第6章)
企業が組織的に分析力を身につけるには、どのデータにフォーカスするか、どこにリソースを配分するか、そもそもデータ分析で何がしたいのか、明確な戦略が必要である。
(中略)
どこにデータ分析投資を集中するか決めるかに当たっては次の質問をしてみると良い。
・他社との差別化の決め手になるのは何か
・自社の強み、得意分野は何か
・データ分析の力を借りたい部門やプロセスはどれか
・自社事業にとって特に大事な情報は何か
・情報や知識で業績が大幅アップしそうな部門やプロセスはどれか


→ データ分析はしたいけど、どう進めるべきか悩んでいる企業は少なくないと思います。
 シンプルではありますが、着手する上で基本となるポイントが完結に整理され、とても実践的だと感じました。

データ分析が業績改善に結びついているか、適切な業績評価指標を設定し、常にウォッチし、数値的に把握することを怠ってはならない。(第6章)

最優先すべきなのが、その会社の強みや競争力の強化につながる投資であることは言うまでもない。
投資判断そのものをデータ分析に基づいて行うこと、あらゆる意思決定に説明責任を求めること、あくまで結果重視でデータ分析の貢献度をウォッチすることなども重要だ。
こうした努力がデータ志向の強い企業、事実重視の文化を育てることに繋がり、分析投資のリターンを最大化することにもなる。
(第6章)

→ データ分析にはコストがかかります。分析基盤(システム)や人材、分析に要する時間など非常に多くのリソースを費やします。データ分析の取組み自体が企業の事業戦略と連動しているか、業績改善に寄与しているかを提供的に管理・評価することは重要だと思います。
 「データ分析は武器になる」といっても、その武器がコストを回収できないほどの弱々しい武器なら戦えません。ですので、データ分析の貢献度を図る指標や継続的な評価、といったマネジメント活動は必要だと思います。

くどいようだが、分析戦略と言うととかく技術偏重になりやすいので、注意してほしい。
「システムさえ整えれば、あとは自然に分析力がつく」というのは幻想である。
(第6章)

→ いくら様々なデータが揃っても、いくら多機能な分析システムが整備されても、企業にとって武器となりうるような分析結果を導けるわけではありません。
 まずは分析の目的、それは競争優位でも業務改善でも、とにかく何らかのアクションに繋がるものを定めることが重要ですよね。
 分析ノウハウやシステムはその手段にしかすぎないので、その目的を果たせるかどうかで選ぶ必要がありますし、分析を担う人材も、その定められた目的とそれに対する仮説によって価値ある分析を進められると思います。
 「データは大量にあるのだから、分析したら、何か出てくるだろう」という認識は、”幻想”とまでは言いませんが、時間を消費(浪費)することの覚悟が必要かもしれません。

分析の究極の目的は良い意思決定である(続編から引用)

→ このフレーズは、続編「分析力を駆使する企業 発展の五段階」から引用したものですが、データ分析が効果的に威力を発揮するためには、
 ・具体的な目的を明確に持った上で取り組むこと
 ・長期的な取組みと位置づけ、継続的な測定・評価・改善を繰り返すこと

 が重要かと思っています。

 分析に対するIT投資も、情報システムと同様に管理されなければならない対象です。
 企業に利益をもたらす分析でなければ意味がありません。

ちなみに、最終章は「分析競争の未来」ということで、2008年発刊の時点で今後のデータ分析に関する様々な変化について、筆者の予測がいくつか綴られているのですが、2014年の今、当たっているもの、そうでないもの(もしかしたら、まだ先なのかも)が色々と・・・。
そういう部分も含めて最後まで興味深く読む事ができました。
ご興味のある方は、是非ご一読ください。

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